金融安定理事会のタスクフォース(TCFD)、気候変動関連財務情報開示の最終報告書案を発表

【引用元】【国際】金融安定理事会のタスクフォース(TCFD)、気候変動関連財務情報開示の最終報告書案を発表 
https://sustainablejapan.jp/2016/12/21/fsb-tcfd-2/24749


世界主要25カ国の財務省、金融規制当局、中央銀行総裁が参加メンバーとなっている国際機関、金融安定理事会(FSB)の「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は12月14日、同タスクフォースが検討してきた「気候変動関連の財務情報開示」に関する最終報告書案「Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures」を発表した。TCFDは同日から60日間、パブリックコメント(Consultation)を受け付けることも同時に表明、その後に最終報告書を仕上げ、正式に公表する。

 TCFDが現在検討中の「気候変動関連の財務情報開示ルール」は、現在世界の産業界や金融界関係者が固唾を呑んで動向を見守るほどの重要なテーマ。そもそもTCFDは、G20財務相・中央銀行総裁会議が2015年4月の会合で、G20首脳会議の下に設けられた金融安定理事会(FSB)に対し、気候変動に伴う課題を金融機関がどのように考慮すればよいかを検討することを求めたことに端を発する。FSBは、同年12月4日にTCFDの設立を公表、タスクフォースの委員長には、金融情報配信世界大手ブルームバーグ創業者兼CEOで前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏が就任。2016年12月末までに「気候変動関連の財務情報開示」のあり方に関する最終報告書案をFSBに提出することとなっていた。

 最終報告書案では、機関投資家や金融機関及び全業界の事業会社に対し、投資家と企業の間で気候変動に関する事業影響やリスクを共有しやすくするため、機関投資家や企業が自主的に開示すべき情報がまとめられた。

 報告書が示す内容はの構成は大きく2つに分かれている。まず、全体の考え方を示した「Recommendation」のパート。次に、実際に推奨される情報開示項目を示した「Recommended Disclosures」のパート。「Recommended Disclosures」のパートはさらに2つに分かれ、機関投資家や金融機関、事業会社の全てを対象としたガイダンス「Guidance for All Sectors」と、各業種ごとのガイダンス「Supplemental Guidance for Certain Sectors」がある。さらに追加資料としてシナリオ分析のあり方を示した「The Use of Scenario Analysis in Disclosure of Climate-Related Risks and Opportunities」も同時に用意された。

 全体の考え方を示した「Recommendation」のパートで開示すべきとされた分野は、「ガバナンス」「戦略」「リスクマネジメント」「定量測定と目標」の4つ。文書の中では、「組織(Organizations)」という言葉が多用されているが、これは年金基金などのアセットオーナー、運用会社、銀行、保険会社、事業会社などを総称するために用いられている単語であって、企業内部の「部署」などを意味しているわけではない。

ガバナンス

気候変動リスクと機会についての取締役会での議論体制

気候変動リスクと機会の評価及び管理についての各経営陣の役割

戦略

組織が短期、中期、長期に直面する気候変動リスクと機会の内容

組織の事業、戦略、財務計画に気候変動リスクと機会が及ぼすインパクトの内容

2℃目標シナリオを含むシナリオ分析を実施し事業、戦略、財務計画に及ぶす潜在的インパクトの内容

リスクマネジメント

気候変動リスクの特定及び評価のための組織プロセス

そのリスクを管理するための組織プロセス

上記の気候変動リスクの特定、評価、管理プロセスを組織の全体リスクマネジメントに組み込む手法

定量測定と目標

戦略とリスクマネジメントプロセスにおいて気候変動リスクと機会の評価のために組織が用いた定量的数値

温室効果ガス排出量のスコープ1、スコープ2、もし適当であればスコープ3の数値とその関連リスク

気候変動リスクと機会を管理するために組織が設定する目標と目標に対する実績

 上記の4分野11項目の内容が全体の考え方。その後に続く「Recommended Disclosures」のパートでは、各項目について開示することが奨励されるより細かい内容がまとめられている。11項目の中で、とりわけ注目されるのが、戦略b「インパクト内容」戦略c「シナリオ分析に基づく潜在インパクト内容」。定量測定と目標aの「定量的数値」だ。戦略bと戦略cのインパクト分析は、実際に定量分析などを実施しようとすると全社レベルの大規模プロジェクトとなりそうだが、今回の報告書では、そのような分析を長期的には推奨しつつも、最初は定性評価レベルからでもよいという内容となっている。そのため、まずはインパクト分野の洗い出しからスタートする企業が多くなることが予想される。一方、定量測定が最初から求められる定量測定と目標a「定量的数値」については、全業種向けの具体例として、気候変動リスクと機会の分析に関連する水、エネルギー、土地利用、廃棄物などの数値や、低炭素社会という事業ドメインでの商品・サービスの売上高、内部で活用されている擬似的な炭素価格が挙げられており、これらであればすでにサステナビリティ報告書などでデータ測定を企業は少なくないだろう。ただ、報告書では単年度ではなく経年データの開示を推奨しているため、単年度しか作成していなかった企業には新たなタスクが生まれそうだ。

 また報告書で示された情報開示では、銀行や機関投資家などには、投融資先企業の気候変動影響分析などこれまでに経験したことがない項目に関する内容が含まれている。投融資先企業の影響の測定については国際的に確立したガイドラインなどがないが、報告書は楽観的な見方を示しており、まずは各企業が自主的にリスク・機会分析をしていくことに意味があるというようなスタンスを採っている。

 この最終報告書案で示された内容は、「自主的なもの」と表明されており義務化などは意識されていないが、今後どこまでのレベルのルールとなるかはまだ不透明だ。最終報告書案は2月までパブリックコメントを受付その後正式に発表されるため、その間に変更が入る可能性がある。また、最終報告書案はあくまで上部組織である金融安定理事会(FSB)に対して提出されるものであり、金融安定理事会がどのような政策議論を始めるかはまだ決まっていない。さらに、金融安定理事会には各国の省庁が参加しているが、国内ルールの内容については最終的に各国政府によって左右されることになる。そのため、最終報告書案では「自主的」とされていても、フランスですでに制定されたエネルギー転換法第173条の情報開示ルールのように、義務化する国も出てくる可能性もある。金融安定理事会には、日本からは財務省、金融庁、日本銀行の3者が参加メンバーとして参加している。ちなみに、TCFDには、日本企業からは東京海上ホールディングスの長村政明CSR室長が金融機関サイドのメンバーとなっている。

 それ以外にも最終報告書が他の国際的ガイドラインに影響を与えていくことも無視できない。12月14日のTCFDの最終報告書案発表以降、IIRCやGRIは声明を発表している。IIRCは、今回の最終報告書案を歓迎、財務情報と非財務情報の開示を統合させるという目的からも最終報告書案で示された内容を支持していくと話した。GRIも、最終報告書案での内容をGRIスタンダードの基準策定において考慮していくことを表明している。CDPも最終報告書案を歓迎するとともに、これにより今後企業は気候変動の情報開示だけでなく事業戦略策定にも組み込んでいくことが期待されていくと談話を発表した。その他の国際ガイドラインもTCFD報告に大きな関心を示しており、今回発表された「自主ルール」が他のガイドラインとして組み込まれている可能性も否定できない。

【参照ページ】The Task Force on Climate-related Financial Disclosures announces publication of Recommendations Report

【最終報告書案(日本語公式訳)】気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言

【最終報告書案】Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures

【推奨情報開示内容を示した文書】Implementing the Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures

【シナリオ分析補足資料】The Use of Scenario Analysis in Disclosure of Climate-Related Risks and Opportunities

【パブコメ受付】The Task Force on Climate-related Financial Disclosures Report Consultation – Registration Site

【参照ページ】Bloomberg-led TCFD Recommendations can “Extend disclosure horizons” – IIRC

【参照ページ】Press Release: CDP and CDSB welcome Task Force recommendations as a major step forward for further mainstreaming climate disclosure


なじょすっぺ福島〜パリ協定と福島再エネ推進ビジョン〜

2015年12月12日、フランスのパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で、歴史的な温暖化対策「パリ協定」が採択されました。 2040年に再生可能エネルギー自給100%を目指す「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン2040」を宣言した福島県にとって、大きな追い風になりえます。 このサイトでは、福島の「再エネ社会」づくりに役立つ知見を紹介します。

0コメント

  • 1000 / 1000